ブランディング
沈黙するためではなく、語りあうためのマスク。
本日は2020年5月25日です。10何年か前に書いた文章が残っていたので、今回はそれを掲載させていただきます。
現況の新型コロナ禍(covid-19)をうけ、文章を修正しようか迷いましたが、考えたすえ思い止まり、少しだけ手を加えて掲載することにしました。
感染症の種類や強弱に関わらず、人間の行動の対応策というより、「精神の対応策」という観点で見れば、これは普遍的な内容ではないか、と判断したからです。
少し情勢にあわない文脈もあるかもしれませんが、「根底にある考え方」を汲み取りながら、お読みいただけるとうれしいです。
では、以下に過去文を貼り付けます。
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東京の東中野にモレーンコーポレーションという会社があります。
病院内感染対策・感染予防用の製品提供(ドクターや看護師が着用するマスク・グローブ・ゴーグル・エプロン、院内用消毒液など)、ならびに感染対策の問題を解決する総合コンサルティングサービスを提供している希少な会社です。
病院内に潜んでいたり、外から持ち込まれたりするウイルスや細菌といった病原体に、人々が病院の中で感染してしまうことを防ぐための製品とサービスですね。
モレーンさんのホームページでは、企業と事業内容の表現として端的に、「感染制御・院内感染対策のモレーン」と打ち出しています。
とてもダイレクトでわかりやすい表現です。が、もっとモレーンの高いサービス価値を伝える表現をプラスできないだろうか、と模索してみることにしました。
業界他社の訴求表現を探ってみたところ、ある会社のパンフレットでは、「新型感染、パンデミック症候群の脅威!」といったちょっとコワイ言葉も踊っていました。
正論ではあるのですが、どこか脅されているようだし、こういう言い方で迫られると、「病院にいる人間には病原体が付着している。患者=ウィルスだ」というネガティブメッセージonlyにも聞こえます。
「患者さんに寄り添って命を守るのだ」という使命感をもって、医療にあたっているプロたちの気構えをなおざりに扱っているように、私は感じました。
ブランド形成には、ユーザーはもとより、社会からの共感が欠かせません。
たとえば「パンデミック症候群の脅威」という言葉では、公共性や社会的包摂性の高いサービスの場合、それが正論であっても共感は広がりにくいのではないでしょうか。
人と人の不信だけをことさらあおり、人と人のコミュニケーションを遮断してしまうようなニュアンスだけを伝えてはいけない。そう感じました。
感染に対しての警戒を喚起し、正しい予防行動と対策を伝え、物理的な適正距離をとることは言うまでもなく重要です。
しかし、モレーンさんの本質的な事業価値は、それだけではありません。人間と人間とを、精神的にまで遠ざけてしまい、それぞれが孤立してしまうことをよしとはしないのです。
同社の感染制御・院内感染対策の目的の一つは、医療従事者と患者さんを、人間らしい思いやりと安心できる信頼関係で結ぶことであり、より安全安心な相互コミュニケーションと医療サービス、院内環境づくりを推進し、全国へと広げていくことでもあります。
モレーンさんのアイデンティティーを見つけるためには、同社だけを見つめていても発見はできません。
感染対策サービスを受ける側である医療従事者(ドクター、看護師)と患者さん(ご家族含む)、その2者と同社との関係性の中に、サービス特性を見出し、アイデンティティーを考えてみたのです。
モレーンさんの院内感染対策サービスは、科学的な予防対策を根底に置きながら、医療従事者と患者さんの関係をより信頼に満ちたものにし、人間と人間が信じあい、語りあう関係を育むためにある。
そこが、すばらしさです。
そこでまずは、医療従事者がたくさん集まる展示会における広告類を提案しました。もちろん表現コンセプトは、モレーンさんの本質的価値、アイデンティティーに立脚しています。
冒頭のマスクのキャッチフレーズは、いわゆるポジティブ転換した表現に仕立てました。展示ブースの上部に設置した大きなパネルと手渡しリーフレットに載せました。
このグローブは、
患者さんと距離をおくためではなく、
触れあうためにあります。
人間を疑うためではなく、
人間が信じあい、微笑みあうために。
院内感染対策はある、と考えます。
加えて、つい即物的に機能だけを伝えがちなグローブの商品説明ビラについても、少しでも人間がやわらかい気持ちでその特質を理解できるように、以下のように工夫しました。
パンフレットも作りました。モレーンは、患者さんの味方であると同時に、「現場でがんばる看護師さんの味方ですよ」 「お困りごとは何でもご相談くださいね」というスタンスを、はっきり表明しました。
最後に、ロゴのそばには、会社としての宣言文も添えました。以下のフレーズです。
モレーンの院内感染対策における信念
1. 人と人の心を、遠ざけるものであってはならない。
2. 人と人が信じあい、安心でつながりあうこと。